2017年 北嶺中学校 理科(4)
今回は,大問4を取り上げます。
高校物理で学習する「静止摩擦力」と「動摩擦力」に関する問題です。
あらかじめ,かなり親切に「【デコボコモデル】による摩擦力の説明」がされているので,
その説明を読み,摩擦力についての正しい知識を得た上で問題に取り組むことが,
正解の条件になります。
ただし,ほとんどの受験生にとって,ほぼ初めて取り組む問題内容なので,
最終の(6)までを完璧に正解するのは相当に難しいでしょう。
なお、問題は標準札幌校ホームページの北嶺中学過去入試問題からダウンロードできます。
大問4
(1)
面白さ☆☆☆☆ 難度B
「【デコボコモデル】による摩擦力の説明」にあるように,摩擦力には,次の2種類があります。
- 物体が静止しているときにはたらく摩擦力
静止している物体に「押す力」を加えても,物体が動かないとき,物体には,
「押す力と逆向き」に「押す力と同じ大きさの摩擦力」がはたらきます。
この摩擦力を「静止摩擦力」といい,
「【デコボコモデル】による摩擦力の説明」では,①の(あ)の摩擦力が,これにあたります。
- 物体が動いているときにはたらく摩擦力
運動している物体には,「押す力」に関係なく,
「押す力と逆向き」に「一定の大きさの摩擦力」がはたらきます。
この摩擦力を「動摩擦力」といい,「【デコボコモデル】による摩擦力の説明」では,
③の(い)の摩擦力が,これにあたります。
説明にもあるように,静止している物体を押す力を大きくしていくと,
物体にかかる「静止摩擦力」もどんどん大きくなります。
しかし,いずれ物体が静止状態を保つことに限界がきて,
摩擦力の大きさが最大となります。
そして,押す力が最大の摩擦力よりも大きくなると,物体が動きます。
この最大の摩擦力を「最大静止摩擦力」といいます。
(い)の「動摩擦力」は必ず,「最大静止摩擦力」よりも小さい値で一定の大きさになります。
選択肢ア~エの摩擦力のうち,
ア,イ,エでは,対象となる物体(雪,くぎ,木の根)が静止しているので,
ここでの摩擦力は,①の(あ)の摩擦力,すなわち「静止摩擦力」にあたります。
一方,ウでは,対象となる物体(カーリングのストーン)が動いているので,
ここでの摩擦力は,③の(い)の摩擦力,すなわち「動摩擦力」にあたります。
したがって,はたらき方が異なるものは,ウになります。
答え ウ
(2)
面白さ☆☆☆☆ 難度B
「【デコボコモデル】による摩擦力の説明」の①~③をしっかり読んで、
内容を理解してから,解く問題です。
静止している物体には,「押す力と同じ大きさの摩擦力」がはたらくので,
摩擦力の大きさをおもりの個数で表すと,
おもりの数が1個~4個のときの摩擦力の大きさは,
いずれもつるしたおもりの個数と同じになります。
おもりの個数が5個と6個のときは物体が動きますが,
問題文中に
「動いている物体にはたらく摩擦力の大きさは,おもり2個だったとします」
という記述があるので,このときの摩擦力の大きさは,いずれもおもり2個分になります。
したがって,正解は次のようになります。
答え 上図
(3)
面白さ☆☆☆ 難度B
【実験1】で,静止している物体にかかる最大の摩擦力(最大静止摩擦力)は,
物体の重さが100gのときはおもり4個分,
物体の重さが200gのときはおもり8個分,
物体の重さが300gのときはおもり12個分となっています。
このことから,物体の重さと,最大静止摩擦力は,比例の関係にあることがわかります。
したがって,物体の重さが540gのときの最大静止摩擦力をおもりの個数で表すと,
4×(540÷100)=21.6(個)分になります。
机に油を塗って摩擦力の大きさが1/3になったときの最大静止摩擦力を
おもりの個数で表すと,7.2×1/3=7.2(個)分になるので,
おもりの個数が8個以上になると,物体は動きます。
答え 8個
(4)
面白さ☆☆☆☆ 難度B
【実験2】の結果(表1)から,
「水平面からの高さ」と,「摩擦のある水平面を動く距離」は,比例の関係にあることがわかります。
また,【実験3】の結果(表2)から,
「摩擦のない水平面での速さ」が□倍になると,
「摩擦のある水平面を動く距離」が,□×□倍になることがわかります。
本問ではまず,
「水平面からの高さ」を45㎝にすると,
「摩擦のある水平面を動く距離」が,6×(45÷5)=54(㎝)になることがわかります。
ここで表2を見ると,
「摩擦のある水平面を動く距離」が54㎝のときの,
「摩擦のない水平面での速さ」は300㎝/秒であることがわかります。
答え 300㎝/秒
(5)
面白さ☆☆☆☆ 難度C
(4)とちがって,表中にそのまま正解の数字が登場しないので,
その分だけ難しくなっています。
表2と表3で,「水平面からの高さ」が5㎝のときと,
「摩擦のない水平面での速さ」が100㎝/秒のときは,
いずれも「摩擦のある水平面を動く距離」が6㎝で等しくなっています。
したがって,「水平面からの高さ」が5㎝のときは,
「摩擦のない水平面での速さ」が100㎝/秒であることがわかります。
「摩擦のない水平面での速さ」が,340÷100=3.4(倍)になると,
「摩擦のある水平面を動く距離」は,3.4×3.4=11.56(倍)になります。
「水平面からの高さ」と,「摩擦のある水平面を動く距離」は,比例の関係にあるので,
「水平面からの高さ」を,5×11.56=57.8(㎝)にすれば,
「摩擦のない水平面での速さ」が340㎝/秒になります。
答え 57.8㎝
(6)
面白さ☆☆☆☆ 難度C
正解の個数が指示されていないので,完答するのはかなり難しいでしょう。
考えやすいものから順に,選択肢を検討していきます。
まず,アとイですが,
「水平面からの高さ」と,「摩擦のある水平面を動く距離」は,比例の関係にあるので,
「水平面からの高さ」が小さいほど,
「摩擦のある水平面を動く距離」は小さくなり,物体は止まりやすくなります。
したがって,イが正解です。
次に,オとカですが,
「摩擦のない水平面での速さ」が□倍になると,
「摩擦のある水平面を動く距離」が,□×□倍になるので,
「摩擦のない水平面での速さ」が小さいほど,「摩擦のある水平面を動く距離」は小さくなり,
物体は止まりやすくなります。
したがって,カが正解です。
最後に,ウ,エ,キ,クをまとめて考えます。
「【デコボコモデル】による摩擦力の説明」の③には,
動いている物体には一定の大きさの摩擦力がはたらくという内容が書かれています。
また,【実験2】の結果から,
「摩擦のある水平面を動く距離」は,「水平面からの高さ」ときれいな比例の関係にあり,
【実験3】の結果から,
「摩擦のある水平面を動く距離」も,「摩擦のない水平面での速さ」の2乗ときれいな比例の関係にあるので,
動いている物体にはたらく摩擦力が一定であることがわかります。
例えば,「水平面からの高さ」が大きいほど,
動いている物体にはたらく摩擦力が大きくなると仮定します。
すると,「水平面からの高さ」が大きいほど,
物体の動く向きと逆向きにはたらく「物体を静止させようとする力」が大きくなります。
そのため,「水平面からの高さ」が□倍になっても,
「摩擦のある水平面を動く距離」はちょうど□倍にはならず,
□倍よりは小さい値になるはずです。
したがって,ウ,エ,キ,クのなかには,正解はありません。
答え イ,カ